あたりまえ
こんな素晴らしいことを、みんなはなぜよろこばないのでしょう

あたりまえであることを
(中略)
手が二本あって 足が二本ある
行きたいところへ自分で歩いて行ける
手を伸ばせば何でもとれる

音が聞こえて 声が出る
こんな幸せはあるでしょうか

しかしだれもそれをよろこばない
あたりまえだ、と笑って済ます

食事が食べられる
夜になるとちゃんと眠れ、そしてまた朝が来る

空気を胸いっぱいすえる
笑える、泣ける、叫ぶこともできる

走り回れる
みんなあたりまえのこと

こんな素晴らしいことを、みんなは決してよろこばない
そのありがたさを知っているのは、それを失くした人たちだけ

なぜでしょう
あたりまえ

井村和清
『飛鳥へそしてまだ見ぬ子へ』より